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感想 無印作品集111 『いくとせいくとていくはいく』 蛸擬さん

 ゆるい夜風が身体にやさしいこの頃。しかしながら斯様な季節の変わり目となると、職場のみなさまも容赦なくぱたぱたとお倒れになる。残った面子に対する皺のよりっぷりが冗談じゃないレベルです。しぬぞ。

 当管理人は季節の変わり目じゃなくても駄目なときは駄目です。これでも人間早々壊れたりしないところが神秘的というかなんというか。生きてりゃなんとかなるもんです。

 さても。そそわ無印感想第二段です。作品はこちら
 以前この黒歴史場にて『パノラマ郷綺譚(無印作品集77)』の感想を残させていただきました。該当の日記を見返してみると、この作品集は割かし感想を書いていたという。素晴らしい作品も相変わらず多々! その中でもとりわけ衝撃的だったのはやはりこの作品だったのです。2009/7/1……退院して間もない頃ですね。眼の前が遠くなる

 お話が逸れました。いつものことです。なのでいつものように麦酒の入ったグラス片手にばちばち参ります。平日ですから。ほどほどに。うん

 例によって、本編の内容に触れる部分が出てしまいます。未読の方はご注意ください。





 * * *


 天人、流るるように生く。
 年々歳々、花相似たりと紡がれど。歳々年々、天人変わることなく侭に在るのが常ならん。

 而して。果てを得るのは悠久の世界ではなかった。
 いつだって、世に等しく在る小さな一個に向けて。その終わりの兆しは告げられる。

 天人、あるが侭に逝く。
 かの女の傍らにあった者は、竜宮の使い。
 五衰が兆しの顕れた天人、その果てを得る際の言葉を聞き届ける。


 天人は言った。
 比那名居天子は言った。
 身体尽き果て、魂は輪廻すると。
 それがまた世に還って来るまで、己を待っていて欲しいと。

 竜宮の使いは頷いた。
 永江衣玖は頷いた。




 盤石劫を過ぎて尚、連綿と時は流れて。
 世の姿は常に変わらず。
 周りにある小さな一個たちは。
 ひとつ、またひとつと小さな果てを得ていく。

 ひとつ約束を交わした魂だけは、未だ還らず。
 されど永江衣玖は生く。
 されど永江衣玖は行く。
 約束など。守ってもらえるなど、かの女は思っていない。
 ただ。そうやって待っているのだ。幾年往くとて。今日も今日とて。




 * * *




 個人の印象でありますが、蛸擬さんの描く文章はべっこう飴のイメージ。噛んで砕いたら勿体無い感じの。懐かしい甘みと、あの透き通った紅茶色に似た文章。
 時折文語的な言葉遣いが出てきて、それが何となく好みです。片仮名の使い方とか、しつこい訳ではないのですけれど印象に残るなァと思います。更に個人的な話になると己はかなり影響されたりしてします。

 さても、天人てんこちゃんと衣玖さんのお話です。
 天人五衰となれば、やはりひとつの「死」がテーマとなるのでしょう。誰かが居なくなってしまえば、そこにはぽっかりと空白があく。それは周りを全部飲み込んでしまったりもするし、時にはされるが侭に埋められてしまったりする。個人の感想としては、この作品は「空白が埋められていく」有様を描いた物語だったのかも、などと思ってました。

 ただ、その空白を埋める時間は果てしなく長い。


  *

 「……百年に一度、天界へ昇って来なさい。ここから西へ行った所に、天の盤石と言う大きな岩がある。四方ひと由旬は超える大きな岩よ。それを、」
 握る手のひらは私の元を離れ、私の纏う羽衣を捕えた。
「羽衣で、払いなさい。百年に一度だけ、済んだらまた百年待って、また昇って、払って、百年待って――盤石磨り減り消え失せるまで、続けなさい。それくらいたったら、私は、戻って来るから。きっと戻って来るから。それまで、衣玖は、待ってて」
 できる? と覗かせたその瞳の色に、私は最初で最後の、不安の色を見た。
 強がりで隠しきれないものを、私はそこに見た気がした。

(本文より引用)


  *


 はじめこれを読んだとき、どこかで聴いたことがある内容だなと思っていたのですけれど。磐石劫のお話かと気付くまで時間がかかりました。大崎善生先生の作品のどこかに出てきてた記憶がある
 夢十夜の方は、不勉強な己を憎みつつ。感想欄を見るまで判っていなかったのです。ちくしょう

 駄目だ。感想から逸れてはいけない。すみません
 作品として丁度良い長さだなァと思ってましたが、心情の機微を表す言葉が印象に残ります。読む方によっては癖があるー、と思われるかもしれませんけれど。今回の作品は衣玖さんの一人称で、長い長い時間を以て思う彼女の心が切々と流れ込む。

 
 うぅむ もひとつ間に引用を挟もうと思ったのですが、衣玖さんと他の方との淡々としたやりとりは是非実際に眼を通していただきたいのでちょっと割愛します。

 その代わり、最後にこの一文だけは。



  *


 私は顔を上げた。暁天の色は深く、その光は目に染みて、痛い。膝をつき、知らず、呟いていた。
「総領娘様、少しは、面白かったでしょう?」
 馬鹿ねえ、と言われた気がした。あの、高慢をそのまま音に表わした様な声で。

 ……

(本文より引用)


  *


 ずっとずっと、途方もなく長い時間を過ごして。
 そうして呟いたのです。「面白かったでしょう?」と。この一文が眼に入ったときは、もう堪らない心地だったのです。
 そして、物語の結末は。もし機会があるのでしたら(既に読まれた方も多いかと思いますけど!)、是非ともご自分の眼で確かめて欲しい。
 これは確かなる「物語」であります。作品の表題からしてやたら素敵に思ってましたが、優しいながらに鋭いのですよね。酔った勢いで言うとファンなんです! なんか結構言ってる気がしますが 僻地ですし言ってもお咎めない 筈……

 蛸擬さんは『ナポリを見てから死ね(無印作品集89)』なども軽妙な塩梅で好みなのですが、『欺雪の雪(無印作品集86)』も個人的にとてもお気に入りです。パノラマ郷綺譚、そして今回感想を残させていただいた作品と並ぶくらいに好き。レティさんとお燐ちゃんが同時に出てくるなんてあんまり無いと思います。そのふたりのキャラクタが好きな方なら是非。あまりにも、あまりにもうつくしい。




 * *


 気持ち悪いくらい好き放題語りすぎたぞ。変なテンションで申し訳ないです。
 今月はなんとかちまりちまりと更新していきたいと思っておりますので、気紛れに訪れた方が感想に興味を抱いていただけたなら幸いです。

 それではおやすみなさい。ありがとうございました!



-The Flaming Lips 『The Ego's Last Stand』

2010.09.22 01:27 | | コメント(0) |

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